鵺(ぬえ)  

鵼、奴延鳥
妖怪のひとつ

  • 頭は猿、背中は虎、尾は狐、足は狸という妖怪。※文献により異なる。
  • とくに平安時代後期に退治される話が軍記物に登場する。
Table of Contents


源頼政の鵺退治  

  • 二条天皇の御代、清涼殿に毎晩のように不気味な鳴き声が響き渡り人々を恐れさせた。
  • かつて源義家が弓を鳴らして怪事を止ました故事に倣い、頼政に鵺退治を命じる。
  • 頼政はこの時、丁七 唱(ちょうしちとなう)(渡辺氏という)と猪早太(いのはやた)を引き連れ、丁七唱には雷上動(らいしょうどう)という弓に、黒鷲の羽ではいた水波(すいは)という鏑矢と、山鳥の羽ではいた兵破(ひょうは)という鏑矢をもたせたという。

    頼政頼み切ったる郎等、遠江国の住人、猪早太に、母衣の風切作いだりける矢負わせて、唯一人ぞ具したりける。我が身は、二重の狩衣に、山鳥の尾を以て作いだりける鋒矢二筋、滋藤の弓に取り添えて、南殿の大床に伺候す。(平家物語)

  • また、猪早太には骨食という短刀を持たせた。
  • 鵺が出てくると、頼政は自ら雷上動に水波を(つが)えて放ち、さらに兵破を射掛けたところ手応えがあったという。

    御悩の刻限に及んで、東三条の方より、黒雲一むら立ち来て、御殿の上にたなびいたり。頼政きつと見上げたれば、雲の中に怪しき物の姿あり。射損ずる程ならば、世にあるべしとも覚えず、さりながら、矢取って番ひ、「南無八幡大菩薩」と、心の中に祈念して、よつ引いて、ひやうど放つ。手答して、はたと続け様に九刀ぞ刺いたりける。その時上下手々に火を燃して、これを御覧じ見給ふに、頭は猿、躯は狸、尾は蛇、手足は虎の如くにて、鳴く声鵺にぞ似たりける。恐しなどもおろかなり。主上御感の余りに、獅子王と申す御剣を下さる。

  • そこで丁七唱が鵺を押え、猪早太が骨食で一突きに仕留めたという。仕留めたものを確認すると、頭は猿、背中は虎、尾は狐、足は狸という化け物で、鵺のような鳴き声であったという。
    とどめを差したのは「金剛の剣」ともいい、無銘六寸八分の短剣であったという。
  • 源頼政はこの功により獅子王を拝領したという。

トラツグミ  

  • 「鵺の鳴き声」の鵺とは、スズメ目ツグミ科に分類されるトラツグミのことで体長は30cmほど。
  • 「ヒィー、ヒィー」または「ヒョー、ヒョー」という鳴き声を上げる。夜中に森の中で細い声で鳴くため、鵺(ぬえ)または鵺鳥(ぬえどり)とも呼ばれ、気味悪がられた。
  • 高音と低音が交互に繰り返されるため、雌雄が鳴き合っているのではという想像から「相鳴鳥」の異名もある。
  • 源頼政が討った化け物はこの鵺のような鳴き声で鳴いたことから「鵺」(化け物)と呼ばれている。平安時代の後期に宮殿に現れ、人々が恐れた。

鵺の登場する作品など  

古事記  

  • 古事記上つ巻、大国主神

    八千矛(やちほこ)の 神の(みこと)は 八島国(やしまぐに) 妻娶(つまま)きかねて 遠々(とほとほ)し 高志(こし)の国に 賢し女を 有りと聞かして (くは)し女を 有りと聞こして さ(よば)ばひに 在り立たし 婚ひに 有り通はせ 太刀が緒も (いま)だ解かずて 襲衣(おすひ)をも 末だ解かねば 嬢子(おとめ)の寝すや板戸を 押そぶらひ 我が立たせれば 引こづらひ 我が立たせれば 青山に は鳴きぬ さ野つ鳥 (きぎ)(とよ)む 庭つ鳥 (かけ)は鳴く 心痛(うれたく)も 鳴くなる鳥か 此の鳥も 打ち止めこせぬ いしたふや 天馳使(あまはせづかひ)事の 語りごとも 此をば

    八千矛神(大国主命)が、妻を求め越の国まで赴き、沼河比売(ぬなかわひめ)に求婚した時に詠んだ歌。

万葉集  

  • 巻第十,1997番

    久方之 天漢原丹 奴延鳥之 裏歎座都 乏諸手丹  柿本人麻呂
    久方の天の川原にぬえ鳥のうら歎げましつすべなきまでに

  • 巻第十,2031番

    吉哉 雖不直 奴延鳥 浦嘆居 告子鴨  柿本人麻呂
    よしゑやし直ならずともぬえ鳥のうら嘆げ居りと告げむ子もがも

    いずれも歌聖と讃えられる柿本人麻呂の歌で、鵺(奴延鳥)のように嘆くという使われ方をしている。

  • この頃までは野鳥の一種でしかなく、そこに怪異性はない。

殿暦  

  • 藤原忠実(1078年 - 1162年)の日記である「殿暦」(知足院関白記)に登場する。

    天永二年(1111年)九月十日、庚午、天晴陰、雨不下、午剋許参内、於内女房談云、一昨日夜亥四剋云々、南方有鳥鳴声、人々云、云々

    天永三年九月四日、戊午、自去夜雨甚降、早旦従院(白河院)有御使、兵部少輔清隆、条々事被、其中去比院御前所鳴、然者令他所給如何、余申云、早々可令他所給ノ由了、女房猶不例由被尋仰、恐由奏了

    天永三年九月八日、壬戌、天晴、依物忌不出行、今日院有御幸、本御所播磨守長実朝臣大炊御門家也、日来御所鳴令立給也、午剋許有御幸、余依服薬不参仕、中納言所労同不参

    永久元年(1113年)閏三月十日、辛卯、内裏鵼鳴ノ怪異ヲ、蔵人所ニ卜セシム、尋デ、内裏ノ怪異ニ依リテ、大般若御読経ヲ修セシム、
    (大日本史料3編14冊)

  • 平安時代、白河院、鳥羽院の頃になると様子が変わり、怪異の象徴として登場している。はじめに登場した源頼政の鵺退治は鳥羽院の孫である二条天皇の御代の話である。

「悪霊島」  

  • 横溝正史原作の推理小説「悪霊島」が1981年に映画化された際、「鵺の鳴く夜は恐ろしい…」というキャッチコピーが使われた。
  • これは神主の妻である刑部巴(おさかべともえ)が鵺の鳴き声を逢引の合図に使っており、男たちが最後には殺されたため。男は巴の怖ろしさに気づきながらも、鵺の鳴き声が聞こえてくると吸い寄せられるように巴の元へ向かってしまうのである。
    作者の横溝正史はこの映画公開の2ヶ月後に亡くなっている。なお舞台となる「刑部島」のモデルは、丸亀市北西にある瀬戸内海の島、本島(香川県丸亀市本島町)ではないかとされる。

映画「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」  

  • 士郎正宗原作で、1995年に公開された映画「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」の劇中歌「謡III-Reincarnation」に鵺が登場する。

    謡III(うたいさん)-Reincarnation
    作詞作曲:川井憲次 歌:西田和枝社中

    ()が舞えば (くわ)() ()いにけり
    吾が舞えば 照る月 (とよ)むなり
    結婚(よばい)に 神(あまくだ)りて
    夜は明け 鵺鳥(ぬえとり)鳴く
    吾が舞えば 麗し女 酔いにけり
    吾が舞えば 照る月 響むなり
    結婚に 神降りて
    夜は明け 鵺鳥鳴く
    遠神恵賜(とおかみえみため)
    遠神恵賜
    遠神恵賜

  • 最後に繰り返される「遠神恵賜(とおかみえみため)」とは、「大祓詞(おおはらひのことば)」に出てくる天津祝詞(あまつのりと)の太祝詞事であるとされ、「()()加美(かみ)依身(えみ)多女(ため)」とも書かれる。

    千座の置座に置き足らはして 天つ菅麻を本刈り断ち 末刈り切りて 八針に取辟きて天つ祝詞の太祝詞事を宣れ

  • 語源は「遠き御祖神よ、大いなる恵みを(たま)え」の他いくつかの説がある。神道教派により祈祷の際に唱えられる。
  • また亀甲占では亀甲の裏に「と」「ほ」「かみ」「ゑみ」「ため」の五つの線を刻み、これを焼いてできたヒビの形で吉凶を占うとされる。さらに五行思想と習合して「と」は水、「ほ」は火、「かみ」は木、「ゑみ」は金、「ため」は土を表すとされる。

    水 ()
    火 ()
    木 加美(かみ)
    金 依身(ゑみ)
    土 多女(ため)

  • この亀甲占の「遠神恵賜」が「遠つ神恵み賜へ」に変化したとも言う。

映画「イノセンス(INNOCENCE)」  

  • 「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」の続編で、2004年に公開された映画「イノセンス(INNOCENCE)」のオープニングでも鵺鳥が登場する。

    傀儡謡(くぐつうたい) 怨恨(うら)みて散る
    作詞作曲:川井憲次 歌:西田和枝社中

    一日一夜(ひとひひとよ)に 月は照らずとも
    悲傷(かなしみ)に 鵺鳥(ぬえとり)鳴く
    ()がかえり見すれど 花は散りぬべし
    慰むる心は ()ぬるがごとく
    新世(あらたよ)に 神集(かむつど)いて
    夜は開け 鵺鳥鳴く
    咲く花は (かみ)()()
    生ける世に ()が身(かな)しも (いね)()
    生ける世に 我が身悲しも 夢は消ぬ
    怨恨(うら)みて 散る

  • 映画の終盤、ガイノイド「ハダリ」に戦闘プログラムをダウンロードして現れた少佐(草薙素子)が、バトーと共にロクス・ソルス社製ガイノイドの真相を暴いたのち、バトーに別れを告げガイノイドから去った後の場面で、再び「遠神恵賜(とおかみえみため)」が流れる。