太閤御物刀絵図
太閤御物刀絵図(たいこうぎょぶつかたなえず)
刀剣書
国指定の重要文化財
「紙本墨書刀絵図」「光徳刀絵図」
Table of Contents |
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概要
- 紙本墨書刀絵図、光徳刀絵図
- 太閤秀吉が蒐集した名物を記載した刀剣書。
- 国別に選び出した上で作例が実物大に描かれている。
本阿彌中興の祖光徳なるもの、刀劔の鑑識並びなく、秀吉に仕へて寵を蒙り、天下の鑑定所を以て任ぜらるるに至る。蓋し太閤御物は日々彼の佛拭するところ、その間之を圖寫し家に秘藏して鑑定の典掾となし、且つは之より自ら抄寫して門下友人に與へ、或は模寫を許したつものゝごとく、此れ等の再三の寫本とおぼしきものを今日まゝ見るところである。
然るに自筆本に至つては現在判然たるもの僅かに二巻、一は毛利公爵家に傳來し、一は金澤市大友佐一しの藏書に係り、前者には「文禄三年六月十四日」後者には「文禄四年五月十二日」の年紀と署名があるが、所謂光徳押形として流布されてゐるものはこの二巻の系統に属する寫本にあらずして、原本不明の「慶長五年二月二十二日」の奥書ある一巻と、他に京都市岸本貫之助し所藏に係る「元和元年極月十一日」埋忠寿斎書寫の奥書ある一巻の系統に属するものである。而して「大坂御腰帳」「大坂腰物帳」「豊臣家腰物帳」等と呼ばれて世に傳ふるものに掲載するところの秀吉藏刀の大半は以上の四本のいづれかにその絵圖を見る。
(略)
昭和十八年四月 本間順治
(光徳刀絵図集成 序)
この序文では四本と書かれているが、その後昭和50年(1975年)頃に、蜂須賀家伝来の石田三成本(石田本)が発見され、五本となっている。
- 現在では、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧できる。
- 光徳刀絵図集成 - 国立国会図書館デジタルコレクション
編纂に際しては、毛利本・大友本の繪圖と詞書を主とし、寿斎本より二本になきものを加え、慶長五年本(※中村本)よりは此れ等になき一圖を補つた。但し寿斎本と慶長五年本とは重複が多いが、敢て寿斎本より多く採りたる所以は比較的に世に知られざるものを商会せんとするものである。
(同上)
- 光徳刀絵図集成 - 国立国会図書館デジタルコレクション
一覧
名称 奥書 | 説明・宛先 | 収載 | 収蔵 |
石田三成本 天正十六年極月三日 | 石田治部少輔殿宛(模写本) 「本阿弥又三郎益忠」 | 72口 | |
文禄三年本 文禄三年六月十四日 | 光徳自筆(原本) 毛利輝元献上 本阿弥光徳(花押) | 65口 | 防府毛利報公会 |
文禄四年「大友本」 文禄四年五月十二日 | 光徳自筆(原本) 本阿弥光徳(花押) | 40口 | 石川県立美術館 |
埋忠本 元和元年十二月十一日 | 埋忠寿斎による写本 輝元への進上本だが別内容 | 72口 | |
中村本 慶長五年二月二十二日 | 中村覚太夫旧蔵本(写本) 本阿弥光徳(花押) | 45口 |
各本の内容
石田本(天正十六年)
天正十六年
75口収載
本阿弥光徳著
天正16年極月3日、石田三成の求めに応じて書かれたもの
のち蜂須賀家に伝来した。
巻頭が「屋けん吉光」(薬研藤四郎)で始まる。
- 奥書
天正十六 本阿彌又三郎
極月三日 益忠
石田治部少輔殿参
- 毛利本との差異
- 石田本のみ所載:29口
- 毛利本のみ所載:25口
- 重複所載:38口
- 特徴と刀工の分布
- 収録刀(毛利本にはないもの)
- 短刀 薬研藤四郎
- 短刀 無銘藤四郎
- 短刀 親子藤四郎
- 短刀 北野藤四郎
- 短刀 小乱藤四郎
- 短刀 庖丁藤四郎
- 短刀 鎬藤四郎 ※志のき目釘孔2個、吉光
- 脇指 鯰尾藤四郎
- 短刀 新身藤四郎
- 短刀 豊後藤四郎
- 薙刀直し 骨喰藤四郎
- 太刀 鬼丸国綱
- 短刀 抜国吉
- 茎押形 銘藤林
- 脇指 鷹巣宗近(鷹の巣宗近)
- 短刀 海老名小鍛治宗近(海老名宗近)
- 茎押形 三条宗近、吉家、菊御作、二字国俊、来国俊、来国光
- 太刀 不動国行
- 刀 氏井正宗
- 短刀 若江十河正宗(若江正宗)
- 短刀 鍋通正宗
- 短刀 三好正宗
- 短刀 貞宗 銘相模国住人貞宗 元弘二年十月日
- 短刀 貞宗 無銘
- 茎押形 正宗、貞宗、国光、国重、助真
- 太刀 青屋長光
- 茎押形 助平、包平、三忠、長光、守家
- 茎押形 真守、助真、景秀、行光、高縄、備中直次
- 刀 西方江 磨上無銘
- 短刀 江 無銘
- 刀 大江 磨上無銘
- 茎押形 宇多国光、宇多国次
- 太刀 北野紀新大夫行平
- 刀 小伝多 磨上無銘
- 茎押形 左、顕国、二王三郎清綱、安綱、大原真守、為清
- 茎押形 石見出羽真綱、正家、正広、国光、尻懸則長、包氏、宝寿
毛利本(文禄三年)
紙本墨書刀絵図
文禄三年(1594年)六月十四日
毛利輝元の求めに応じ献上したもの
刀絵図65口
重要文化財
毛利報公会所蔵(山口県防府市)
- 豊臣秀吉の蔵品から南北朝以前の名工51人六十五振りを選んで図示し、刃文と銘文を表した。
- 本阿弥光徳が文禄三年に毛利宗瑞輝元の求めに応じて書き写した旨の奥書がある。
依御所望此一巻進上仕候 不宣
文禄三年六月十四日
本阿弥光徳(花押)
安芸宰相様
- 京、粟田口、大和、備前、相模、越中、九州、その他諸国の順に諸国名工の代表作を絵図にしたもの。
- 収録されている刀の数は65口。
- 「鷹巣三条脇指(鷹の巣宗近)」から始まる
- 名物は、鷹の巣宗近、不動国行、鳥養国次(鳥飼来国次)、鬼丸国綱、大国吉、薬研藤四郎、骨喰藤四郎、庖丁藤四郎、鎬藤四郎、鯰尾藤四郎、江戸新身藤四郎、一期一振藤四郎、荒波一文字、青屋長光、若江正宗、三好正宗、切刃貞宗(切刄)、大江、西方江、北野紀新大夫行平など20口が含まれる。
大友本(文禄四年)
文禄四年五月十二日
40口収載
紙本墨書刀絵図
大友本
重要美術品
石川県立美術館所蔵
- 宛名なし
- 「文禄四年五月十二日本阿弥。光徳ノ奥書アリ」
- 「骨喰藤四郎」から始まる。
- 昭和のはじめに重要美術品指定。石川県大友佐一氏蔵。
- 文禄三年本と重複しているものもあるが、この本だけに所載されているものも少なくない。
- 金沢市の愛刀家大友氏が所蔵していたが、近年遺族より石川美術館に寄贈された。
- 所載名物一覧
埋忠本(元和元年)
- 原本は毛利宗瑞輝元に進上したもので、金工家の埋忠寿斎明栄による写し。
御太刀御腰物御脇指之絵圖
合七拾三腰分自然ニ紙のおし
ちゝ見爲相違寸尺書付申候
右ハ毛利宗瑞公ヘ
本阿彌光徳是ヲ進上也
元和元 埋忠寿斎是書
極月十一日 明榮(花押)
埋忠是テ所持
明甫(花押)
同九左衛門
友行(花押)
古谷九右衛門
良泰(花押)
同平右衛門
美治(花押)
同万右衛門
美武(花押)
古谷再左衛門
義宣(花押)
同甚五左衛門
義起(花押)
同平右衛門
知義(花押)
同直記
武義(花押)
同義郷
(花押)
- 太刀、腰物(短刀)、脇差あわせて73腰(親子藤四郎で2口)。
- 大坂夏の陣の元和元年に編纂されたもので、同年4月の大坂の役で焼失した刀剣には、「ヤ」と焼けた旨が書かれている。
- 大坂の役で焼けたものでは、小鍛治宗近、一期一振、鯰尾藤四郎、大坂新身藤四郎、親子藤四郎、長銘正宗、上り竜正宗、若江正宗、大江、正宗刀など10口が記載されている。
- 埋忠家で調製したものには「金具寿斎仕候」などと書かれている。
- 他の2冊には記載されていないこの本のみに所載されているものは、鳥養国俊、小尻通国光、奈良屋貞宗、蜂屋江、千鳥一文字など18口。
- 埋忠家ののち古谷家、その後京都の刀剣商「
草薙廼舎 」主人の岸本貫之助氏所蔵。
- 所載名物一覧
- 鷹の巣宗近(鷹巣、京。銘三条)
- 海老名宗近(御物こかち、九寸八分、ヤ。海老名小鍛治 銘宗近) ※長さが異なるため海老名宗近とは別物か
- 不動国行(長さ一尺九寸一分半、金具寿斎。銘国行)
- 新身国行(あらミ国行、長さ二尺七寸。銘国行)
- 小国行(二尺五寸二分。銘国行)
- 鳥飼来国次(とりかい、一尺九寸八分、寿斎金具。鳥養国次 銘国次)
- 鳥養国次(とりか井、むねきり。鳥養国次 銘来国次)
- 光包(大和より上申候、八寸五分半。銘光包)
- 光包(八寸八分。無銘)
- 長谷部国重(御物、一尺七分有、御たて拵ニ寿斎金具。銘長谷部国重/延文四年十二月日)
- 信国(長岡与一郎上、長さ一尺九寸。銘源左衛門尉信国/応永二十一年二月日)
- 鬼丸(御物、鬼丸、長さ二尺五寸三分半、御太刀拵寿斎。銘国綱)
- 国吉(ハたしんなり、むねきり。短刀 銘国吉)
- 大国吉(大國吉、むねきり。銘国吉)
- 抜国吉(ぬけくによし。銘国吉)
- 一期一振(御物、一こ一ふり、二尺二寸八分、ヤ。銘吉光)
- 薬研藤四郎(やけん、はたしんなり、口伝在之。薬研藤四郎、口伝これあり、銘吉光)
- 庖丁藤四郎(庖丁、むねきり。銘吉光)
- 鎬藤四郎(御物、志のき。凌藤四郎 銘吉光)
- 新身藤四郎(あらみ、からす丸殿あらミ藤四郎、九寸五分、むねきり。銘吉光)
- 鯰尾藤四郎(御物、なまつ尾、長さ一尺二寸八分半、ヤ、御さし用秀頼様相口、拵両度寿斎仕候。鯰尾藤四郎 銘吉光)
- 骨喰藤四郎(御物、ほねはみ、長さ一尺九寸五分半、むねきり、なかこきる 切物之内ニむら有之故さらへ申し金具寿斎仕候、此所ヨリ切申候。彫り物に汚れがあったために取り除き金具は寿斎が作った。骨喰藤四郎 無銘)
- 新身藤四郎(あらみ。短刀 銘吉光)
- 新身藤四郎(御物、あらミ、九寸三分、ヤ、あらミ藤四郎。短刀無銘)
- 小乱藤四郎(こみたれ。銘吉光)
- 親子藤四郎(御物、おや子、長さ七寸五分、ヤ こ、長さ五寸二分、ヤ。親子の2本。親子藤四郎、銘 吉光)
- 当麻友清(大和国。短刀、銘當麻友清)
- 大坂当麻(當ま、八寸九分、肥前匠上。無銘)
- 保昌五郎(保昌五郎、直刃、にえ在之、さきのかへりやきつむる、むねきうなり、しのきひろし、むねきり。銘藤原貞吉作)
- 保昌五郎(御物、保昌五郎、二尺一寸九分、すり上。保昌五郎 磨上無銘)
- 小尻通し(御物、小尻とおし、長さ一尺半分半、ヤ。小尻通国光 銘国光。新藤五国光)
- 行光(八寸二分、美濃匠上。無銘)
- 十河若江正宗(御物、十河わかえ、長さ八寸七分、ヤ、むねきり、正宗 是ヲ光徳老ハ玉ト被申候。十河若江正宗 無銘。正宗の作で、本阿弥光徳が玉と申され候)
- 上り竜(御物、のほり龍、長さ八寸四分、ヤ。上り龍正宗、銘正宗)
- 長銘正宗(御物、長銘ノ正宗、八寸三分、ヤ。長銘正宗 銘 相州住正宗 嘉暦三年八月日)
- 正宗(正宗、八寸九分、ひた匠上。飛騨匠上)
- 豊後正宗(御物、ふんこ正宗、長さ一尺九寸五分半、金具寿斎仕候。豊後正宗 磨上無銘)
- 正宗(御物、正宗、長さ二尺一寸、ヤ、しのき、御前江右衛門明寿寿斎両人上ル)
- 切刃貞宗(御物、さだ宗、きりは貞宗、長さ一尺五分半、むねきり。切刃貞宗無銘)
- 御料脇指(御料脇指、長さ一尺一寸四分。銘貞宗)
- 貞宗(一尺一寸、大和より上る)
- 貞宗(一尺一分、池田伊七殿より上。貞宗無銘)
- 奈良屋貞宗(御物、ならや貞宗、長さ九寸七分。無銘)
- 貞宗(長さ二尺一寸四分、すり上)
- 高木貞宗(御物、たて拵、九寸有。短刀高木貞宗、銘 江州高木住貞宗)
- 二日はさめ(御物、二日はさめしつ、二尺三寸六分半。二日はざめ志津磨上無銘)
- 志津(御物、しつ、一尺九寸四分、御たて拵、寿斎金具。志津無銘)
- 大江(御物、大江、越中国、長さ二尺一寸七分半、すりあけ、ヤ、寿斎上る。磨上無銘)
- 江(御物、かう、長さ八寸三分、むねきり。短刀 江無銘 棟切り)
- 蜂屋江(はちやかう、長さ二尺二寸、大御所様より むこひきて申て いけだ三左衛門殿 是江を上申付候、寿斎金具ハ両度仕候)
- 甲斐国江(かい国かう、二尺一寸三分、すり上、磨上無銘)
- 小烏則重(御物、こからす則重、二尺四分と半、すり上。磨上無銘)
- 宇多国光(短刀、銘 宇多国光)
- 薙刀法城寺無銘、小包平(御物、小包平、備前国、二尺一寸四分、銘包平)
- 朝倉長光(御物、あさくら長光、長さ一尺七寸五分、銘 長光/清水寺 日下部孝景)
- 府中長光(ふちう長光 銘長光 一尺八寸)
- 高宮長光(たかミや長光 銘長光、二尺二寸七分 磨上 土佐守上)
- 寺木長光(御物、てら木長光、二尺八寸、銘長光)
- 長光(御もたせ被成申候御太刀、二尺三寸四分、銘長光)
- 大織冠(たいしゅゆくわん左文字、七寸九分半 無銘)
- 小左文字(御物、七寸四分)
- 聚楽左文字(同、しゅらく、七寸八分半、銘左/筑州住)
- 小西(御物、小西上申候、長さ一尺九寸九分、備中国青江、銘備州長船長義応安五年七月日)
- 兼光(一尺四分半、銘 備州長船兼光 元徳二年十二月日)
- なおこの岸本氏の所蔵本とは別の寿斎本も存在するとされる。「刀剣と歴史」483号に寺田頼助氏が紹介している。
中村本(慶長五年)
慶長五年二月二十二日奥書
45口収載
- 中村覚太夫旧蔵本
- 慶長五年本写本
- 中村覚太夫は幕末の刀剣研究家。その後三矢宮松氏所蔵。
- 埋忠寿斎本になく当本のみに所載されるのは、吉光在銘太刀(一期一振ではない)。
- 毛利本および大友本と重複がない。
- 寸尺が記載されている点が特色となっている。
- 奥書
御太刀御腰物御脇指之
絵圖合四拾六腰之分自然
紙のをしちゝみ爲相違ニ寸
尺書付上申候已上
慶長五年 本阿彌
二月廿二日 光徳- ※奥書には「絵圖合四拾六腰之分」となぜか1本分多く記される。
- 所載刀剣一覧
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